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2005/9/8  冬宝祭  卒業発表作品 アンチ・クリスマス
寝起き


 そろそろ寒さも本格的になっていき、吐く息は白く色づき頬は薄く赤色に染まる季節がやってくる…。首にはマフラーを巻き手には手袋をつけて歩く人もちらほら見え始める…。
 そう…。一年に一回しか訪れないロマンチックで誰もが夢見るあの日がやってくるのです…。そして、寒くなる時の一大イベントといえば勿論、クリスマス!街を見ればあちこちでカップルがお互いのプレゼントを交換する日…。十二月二十五日。聖クリスマス。おとぎ話ではサンタクロースのトナカイがひくソリに乗ってプレゼントをばらまく…そして、子供部屋に備え付けてある大きめの靴下にすっぽりと収まっている…。
 朝目が覚めれば子供達はみんなビックリ!素敵じゃありませんか…。


 


 だけど、今度のクリスマスはそうもいかないようです…。それは何でかって?それはこの続きを読めば分かります。
 今年起きる素敵なはずのクリスマス劇を…。









     準備体操

        1


 渡和樹(ワタリ カズキ)は、次第に冬の姿を見せ始めていく木々を見つめながら足を動かしていた。水神学園三年生。基本的に自由がモットーのこの学校で過ごす日数はもう数える程度。自由とはいってもある程度の決まりはある。

・ピアスはダメ
・時間には厳しく!
・提出物は期限を守る!

 あってもこの程度である。和樹はピアスに興味がなく、時間はいつも守っている(常に一時間前行動を心掛けている和樹には無縁の決まりとも言える)。提出物もそれ程の量が出される訳でもなく、出される度に次の日には必ず持っていくという生真面目。特に問題もない普通の生徒である。
 山手線乗り場 大塚駅で電車を待っていると突風が和樹の体を通り抜けた。和樹は目をつむり、風を防いだ。
「何なんだ…いきなり…」
 和樹は失礼極まれりの風に対して悪態をついた。

        2
 さっきの風──サンタクロースは人込みの間をすり抜けひょうと口笛を吹いた。
「おや、人間の間を通過するのはちょっとまずかったかもですね。ひひひ」
 サンタクロース──ロビンは後ろをちらりと見ながら言った。ロビンはこれから地元の配達局場に行く途中である。そろそろ仕事の時期なので、自分の飼っているトナカイを引き連れて空を優雅に浮遊しているのだ。
「さぁて、今年も大変な事になりそうだなぁ〜。去年に比べると子供も数
 も増えているみたいだしね」
 ロビンは、胸元から一枚のチラシを出した。毎年発行される『子供総数量』である。今年は去年に比べてかなり子供の数が増えている。なので、その分一人に分けられる分量も増える。そうなると、一日中働き通す事になる。サンタにとって一日中働くという事は、一週間寝ずに勉強をやり続ける受験生と同じ位苦痛である。普段、寝たい時に寝られる家とは違い、下界で仕事している時は、勿論一睡もできない。それに加え、食べ物も飲み物も口にできないので、サンタにとって年に一度のこの仕事は命をかけた仕事でもあるのだ。食べ物は食べられるのだが、サンタの口に合わないのだ。飲み物も口に合わない。そこで、ある別のサンタは自分の国の携帯食料を忍ばせていたのだが、実はそれは規則違反。自分の国の物を下界(人間界)に持ち込んではいけない、というルールがある。
 見事にその約束を破ってしまったあるサンタは、配達中にも関わらず呼び出され、その場で解職処分となった。情報は瞬く間に広がり、サンタの世界では新聞発行し事件の重大さを重々しくサンタ達の胸に刻み込んだ。
この事件以来、毎年十二月の一巡目は必ず持ち物検査が行われる。一ヶ月の間、サンタクロース達は人間界でいう雲の上にある事務所の中で過ごす。
そこの中では、サンタクロース達の口に合う食材やら飲み物が揃っているので特に問題はない。また、サンタクロースの健康や好みに合わせた個室や簡単な宴会ができるホールも備えてある。設備がしっかりしている分、規則はそれなりに厳しい。さっき話した持ち物の件もそうだが…

サンタの基本 第五条
・服は、赤と白の服限定
・髭は剃ってはいけない。剃る時は、必ず局長に言う事
・マイナス思考は禁止
・起床は八時。就寝は九時厳守
・何が何でも、クリスマスには必ず雪を降らせる

 サンタクロースの中の法律を一部出してみた。法律の事を思い出したロビンは少しうんざりした。なんでこのような法律ができたのか…。
「さぁて、アイツは今頃何してるかね…」
 ロビンは友達に会うことにし、そりの速度を速めた。


        3
 配達事務所に着いたロビンは、自室にトナカイとそりを置いて友達の部屋に向かった。友達の名前はメルヴィン。怠け者で最近有名になったばかりのベテランサンタ。昔は登山部に所属していたらしく、山に関してはやたら五月蝿い。あの山は低いだの、あれは山じゃねぇだの…。とにかく山に関してはエキスパート級である。今年も配達をしにこの事務所に来たわけなのだが…?
「おーい。メルヴィン。いるか?」
「…おーぅ。入れー」
 中から気だるい声が聞こえ、メルヴィンがいる事を確認し中に入った。
「おー。今年の子供の量みたかー?」
「まぁ…ちらっと見てすぐに鼻紙にして捨てたけどなぁ。それがどうかしたのか?」
 部屋に入ると、すぐ目に入ったのが…ゴミ。あちこち、いや部屋全体がゴミで埋め尽くされているのだ。むしろ、この部屋はゴミで出来ているようなものだ。ロビンは少し顔をしかめながら、部屋の中に入った。
「今年は(配達量が)多いぞ。お前もしっかりしないと終わらない位の量だってさ」
 ロビンは意地悪く笑いながら、ゴミの海原を突き進んだ。メルヴィンの隣ではお供のトナカイ──クラウム(オス)が寝転びながらゲーム雑誌を読んでいた。おまけにお菓子ボロボロ、尻をボリボリ…。見た感じからっきしやる気が伺えない。もう一匹のトナカイ──シトラス(メス)は、部屋の隅っこでせっせと編み物をしている。ロビンはトナカイなのに器用だなぁと思わず感心してしまった。
「へー。そうなんだ…。大変そうだなー」
「お前も仕事するんだろ?何でそんな他人事なんだよ」
「えー?だって…たるいじゃん」
 大きなソファに移動し、寝転がった時に発した言葉がそれだった。
いきなり出た気の抜けたセリフにロビンは我が耳を疑った。
「え?今何て言った?」
 思わず聞き返す。答えはさっきと同じく、「たるいじゃん」だった。
「何でさ?去年もやったけど、そんな言葉一つもなかったじゃん」
 ロビンはゴミの荒波の上で立ったまま怒鳴った。メルヴィンは顔を歪ませ、まるでハエを追い払うような仕草をした。
「うっるせーな。だって、何でクリスマスになると俺達が働かなきゃいけねぇんだよ。それっておかしくねぇ?」
 十二月にサンタが働くのが当たり前だと思っているロビンは頭の上にぽこぽこと?(クエスチョンマーク)が浮かんでいた。
「だって、それが常識だろ?クリスマスにサンタが働くのは…」
 至って普通に答えたつもりだが、メルヴィンは顔を真っ赤にして怒った。
「だからぁ、何でクリスマスに俺達が働かなきゃいけねぇんだっての」
「だから、それが常識なんだよ。クリスマスはサンタが世界の子供達に夢を運ぶのが仕事なんだよ」
 メルヴィンに一息でまくしたて、自分もゴミで埋もれ始めたソファに腰をかけた。
「それが、俺達の仕事じゃねぇか?」
 蚊の泣く様な声でメルヴィンに問いかけた。しかし、メルヴィンの態度は一向に変わらなかった。
「まぁ、お前達が頑張ればいいだけの話だしな・・・俺は参加しねぇから」
 この一言で、ついにロビンはキレた。
「あぁ、そうかよ。じゃあ、もう知らねぇ。勝手にしなっ!」
「じゃあ、勝手にさせて貰うわ…。エリートさん」
 メルヴィンの言葉を最後まで聞かずに、ロビンは大股でゴミの海原を渡ると力の限りドアを叩きつけた。その時の音は反対側にある、食堂まで聞こえたという…。
「勝手にする…か…。今年の仕事は大変なんだよな…うーん…」
 要点を口にしながら考え始めた。しばらく部屋の中をウロウロしていると、いい案が思い浮かんだらしく急にデスクワークを始めた。自分の案をまとめた文章がレポート用紙サイズの紙三枚で収まった。そして、その紙を見ながら満面の笑みを浮かべた。
「ふふふふ…これを実行すれば絶対面白いクリスマスになるぞ…」
 不気味な声はいつまでも部屋中に響き渡った。二匹のトナカイはそれに臆する事なく自分の生活を続行している。

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